脳血管障害

動脈解離(椎骨動脈・頸動脈)✓ 監修済み

発症様式: 突発発症。脳卒中症状の前に頚部痛・後頭部痛・顔面痛が先行することが多い(数時間〜数日)。外傷・カイロプラクティック・激しい咳・嘔吐・出産・スポーツなどが誘因。誘因のない自発性解離も多い(FMD・結合織病・遺伝性が背景にあることも)。

概要

頚部または頭蓋内動脈の内膜が裂け、血液が動脈壁内に進入することで偽腔を形成する病態。頚部内頚動脈解離(internal carotid artery dissection: ICAD)と椎骨動脈解離(vertebral artery dissection: VAD)が代表的で、若年〜中年(30-50歳)の脳梗塞の重要な原因(若年性脳卒中の10-25%)。頚部痛・後頭部痛が前駆症状として典型的で、外傷・運動・カイロプラクティック・くしゃみなどが誘因になる。早期診断と適切な抗血栓療法で予後は良好。

代表症候

若年〜中年(30-50歳)に多い頚部痛・後頭部痛が脳卒中症状に先行することが多い(数時間〜数日)外傷・頚部回旋運動・くしゃみ・カイロプラクティック等が誘因頚部内頚動脈解離(internal carotid artery dissection: ICAD):Horner症候群(部分的:縮瞳・眼瞼下垂、無汗症なし)を伴いやすい椎骨動脈解離(vertebral artery dissection: VAD):Wallenberg症候群・小脳症候を呈する頭蓋内解離はくも膜下出血の原因となりうるMRA / CTA で偽腔・狭窄・closed-loop signなど特徴的所見抗血小板療法と抗凝固療法の選択肢はあるが、CADISS試験で同等

Clinical Pearls

  • 💡若年脳卒中+頚部痛・後頭部痛 → 解離を必ず疑う
  • 💡Horner症候群(縮瞳・眼瞼下垂)+頚部痛はICAD特異的
  • 💡若年〜中年でWallenberg症候群(延髄外側症候群)をみたらVADを最優先に疑う — VADは若年Wallenbergの最重要原因
  • 💡カイロプラクティック・激しい首の運動歴・くしゃみ・出産は要問診
  • 💡頭蓋内解離はくも膜下出血の原因 — 頚部解離とは治療方針が異なる
  • 💡CADISS試験:抗血小板と抗凝固で転帰差なし → 出血リスク考慮し抗血小板が選択されることが多い
  • 💡3-6ヶ月で画像再評価し、解離の修復を確認

症候学

頚部痛・後頭部痛

ICADでは前頚部痛・側頭部痛・眼窩部痛、VADでは後頚部痛・後頭部痛が典型。脳卒中症状の前に出現することが多い。

臨床的意義: 解離による動脈壁の伸展・刺激を反映。「これまでに経験したことのない頚部・後頭部痛」は解離を疑う最大のサイン。
脳卒中症状

ICAD:中大脳動脈領域の症状(対側片麻痺・失語)。VAD:後頭蓋窩症状(めまい・複視・失調・Wallenberg症候群(延髄外側症候群)が代表的で、椎骨動脈やPICA起始部の閉塞・塞栓により延髄外側が虚血される)。

臨床的意義: 解離部からの塞栓性脳梗塞または閉塞による血行力学性梗塞。症状の局在と動脈解離の部位が一致するか確認。若年〜中年のWallenberg症候群はVADを最重要原因として疑う。
Horner症候群

部分的Horner症候群(縮瞳・眼瞼下垂のみ、無汗症はない)。ICADの特徴的サイン。

臨床的意義: 内頚動脈周囲の交感神経線維(顔面の発汗を支配する外頚動脈系は温存)の障害を反映。「部分的」が解離特異的(神経節以下の障害)
下位脳神経麻痺

ICADで稀に III・IV・V・VI・IX・X・XI・XII神経麻痺。Vernet症候群・Collet-Sicard症候群など。

臨床的意義: 解離部の隣接構造への影響。原因不明の単独脳神経麻痺+頚部痛では解離を疑う
拍動性耳鳴(pulsatile tinnitus)

ICADで「ドックンドックン」と心拍に同期した耳鳴。

臨床的意義: 解離部での乱流を反映。聴診で頚部血管雑音を聴取できることも
くも膜下出血

頭蓋内動脈解離(特に椎骨動脈頭蓋内部)で発症することがある。

臨床的意義: 頭蓋内解離は再破裂リスクが高く、早期外科介入が必要。日本では頭蓋内椎骨動脈解離が比較的多い

ピットフォール

  • 「片頭痛と思っていたら解離だった」は若年脳卒中で最も多い見逃しパターン
  • 頚部痛・後頭部痛が先行するパターンに気づく — 「これまでに経験したことのない頚部痛」は要注意
  • 外傷の既往は半数以下 — 自発性解離も多い
  • Horner症候群を見逃さない — 縮瞳・眼瞼下垂は意識して観察しないと気づきにくい
  • 頭蓋内解離はくも膜下出血の原因 — 頚部解離との対応が異なる
  • CADISS試験では抗血小板と抗凝固の優劣がつかなかった — 厳密な治療選択にはエビデンスがない
  • カイロプラクティック・首の急激な動きの既往は積極的に問診する
1 / 5症候学 →

出典: Markus HS, et al. Antiplatelet therapy vs anticoagulation therapy in cervical artery dissection: the Cervical Artery Dissection in Stroke Study (CADISS). Lancet Neurol. 2015;14(4):361-367. / Engelter ST, et al. Aspirin versus anticoagulation in cervical artery dissection (TREAT-CAD): an open-label, randomised, non-inferiority trial. Lancet Neurol. 2021;20(5):341-350. / Debette S, Leys D. Cervical-artery dissections: predisposing factors, diagnosis, and outcome. Lancet Neurol. 2009;8(7):668-678.