自己免疫性脳炎✓ 監修済み
発症様式: 亜急性
概要
中枢神経系に対する自己抗体により脳実質、特に辺縁系を中心に炎症を生じる疾患群。亜急性(3か月以内)の経過でworking memory障害、意識変容、精神症状を呈する。標的抗原は細胞表面抗原(NMDA受容体、LGI1、CASPR2等)と細胞内抗原(Hu、Yo等)に大別され、前者は抗体介在性で免疫療法への反応が良好、後者は細胞障害性T細胞が主体で不可逆的傾向がある。
代表症候
サブタイプ
自己免疫性脳炎で最も頻度が高い
抗NMDA受容体抗体(抗GluN1)
若年女性に好発(卵巣奇形腫の合併あり)
- -精神症状→痙攣→不随意運動→意識障害→自律神経障害と段階的に進行
- -口腔周囲の不随意運動が特徴的
- -緊張病様状態
- -中枢性低換気
- -急性経過(日〜週単位)。腫瘍非合併例も多い
- -【検査の目印】MRI は正常〜非特異的(約半数で正常)。脳波で extreme delta brush(重症・予後不良と関連)。抗体は血清より髄液の感度が高い
細胞表面抗原型。FBDS が特徴的
抗LGI1抗体
中高年男性に好発。多くは非傍腫瘍性
- -亜急性〜慢性の記憶障害(辺縁系脳炎)
- -faciobrachial dystonic seizure(FBDS、顔面上肢ジストニア発作):数秒のごく短い片側の顔面+同側上肢のジストニア発作を 1 日に何度も反復。抗 LGI1 脳炎にほぼ特異的で、記憶障害に先行することが多い
- -FBDS は抗てんかん薬より免疫療法(ステロイド等)が有効で、早期治療で辺縁系脳炎への進行を防げる
- -低 Na 血症(SIADH)を伴いやすい
- -【検査の目印】MRI は側頭葉内側の高信号または正常、大脳基底核の信号変化を伴うことも。髄液細胞数は正常のことが多く、抗体は血清でよく検出される
細胞表面抗原型
抗CASPR2抗体
中高年男性に好発(胸腺腫合併あり)
- -ニューロミオトニア(Isaac症候群)
- -末梢神経過興奮
- -自律神経障害
- -不眠
- -慢性経過
細胞表面抗原型(腫瘍合併が多い)
抗AMPA受容体抗体(GluA1/GluA2)
中高年女性に多い
- -辺縁系脳炎型(記憶障害・精神症状・発作)。MRI で側頭葉内側の信号変化
- -腫瘍合併が多い(肺・乳腺・胸腺)
- -再発しやすい
細胞表面抗原型(小細胞肺癌の合併が多い)
抗GABA-B受容体抗体
高齢者・喫煙者に多い
- -早期から痙攣発作が前景(しばしばてんかん重積)
- -辺縁系脳炎型。小脳失調・opsoclonus を伴うことも
- -小細胞肺癌(SCLC)の合併が約半数と高頻度 → 腫瘍検索が必須
- -【検査の目印】MRI は側頭葉内側(辺縁系)の高信号が主で、小脳病変・萎縮を伴うことも。出没・移動する多発皮質病変は抗 GABA-A の特徴で、GABA-B では通常みられない
細胞表面抗原型(難治発作が前景)
抗GABA-A受容体抗体
- -難治性のてんかん発作・てんかん重積が前景
- -【検査の目印】多発性・移動性(経過で出没・移動する)の皮質-皮質下 FLAIR/T2 高信号(脳溝をまたぐ "cotton ball" 様)。進行すると萎縮
- -小児〜成人まで。胸腺腫の合併があることも
細胞表面抗原型
抗DPPX抗体
- -特徴的な前駆症状:下痢と体重減少(脳炎症状に先行する消化器症状)
- -中枢神経過興奮(過剰驚愕・ミオクローヌス・振戦)・自律神経障害
- -慢性経過。【検査の目印】MRI は正常のことが多い
細胞質内抗原。免疫療法反応は表面抗体型より劣る
抗GAD65抗体(高力価)
- -辺縁系脳炎・側頭葉てんかん・小脳失調・スティッフパーソン症候群と多彩
- -高力価の抗 GAD65 抗体。多くは非傍腫瘍性
- -細胞質内抗原のため免疫療法への反応は細胞表面抗体型より乏しい
- -【検査の目印】MRI は側頭葉内側(辺縁系)、失調型では小脳萎縮
細胞表面抗原型
抗glycine受容体抗体
- -PERM(進行性脳脊髄炎+固縮+ミオクローヌス)。スティッフパーソン症候群スペクトラム
- -脳幹症状・自律神経障害・過剰驚愕
- -免疫療法に反応しうる
細胞内抗原。T 細胞性で免疫療法反応が不良、腫瘍治療が中心
抗 Hu(ANNA-1)・抗 Ma2・抗 CV2/CRMP5・抗 amphiphysin など
- -抗 Hu(ANNA-1):小細胞肺癌。辺縁系脳炎+感覚性ニューロノパチー+脳幹・自律神経
- -抗 Ma2:精巣・胚細胞腫瘍(若年男性)。辺縁系・間脳・脳幹(過眠・垂直性注視麻痺)
- -抗 CV2/CRMP5:小細胞肺癌・胸腺腫。脳脊髄炎・舞踏病・視神経炎・末梢神経障害
- -細胞障害性 T 細胞が主体で免疫療法への反応は不良。腫瘍治療が予後を左右する
Clinical Pearls
- 💡「精神症状+痙攣+不随意運動」の組み合わせは自己免疫性脳炎を強く疑う
- 💡抗体結果は数週間かかるため、臨床的に疑えば感染症除外後に免疫療法を早期開始(治療は治療タブ参照)
- 💡HSV 脳炎後に抗 NMDA 受容体脳炎を発症することがある(post-infectious autoimmune encephalitis)
- 💡抗体で像が違う — 若年女性の段階進行+口部ジスキネジアは NMDAR、高齢の FBDS+低 Na は LGI1、早期の難治発作は GABA-B/GABA-A
- 💡FBDS(顔面上肢ジストニア発作)は抗 LGI1 脳炎に特徴的 — 数秒の片側顔面+上肢の発作を高頻度に反復。抗てんかん薬より免疫療法が奏効し、早期治療で認知症化(辺縁系脳炎への進行)を防げる
- 💡早期の痙攣重積+高齢喫煙者では抗 GABA-B と小細胞肺癌を疑う
- 💡細胞内抗原型(傍腫瘍性:Hu/Ma2/CV2)は免疫療法が効きにくく、腫瘍治療が予後を左右する
症候学
近時記憶障害・前向性健忘が前景に出やすい。同じ質問を繰り返す、直前の出来事を保持できないなどの形で現れる。
傾眠、譫妄、錯乱、興奮などとして出現する。覚醒度低下だけでなく、注意・集中の障害として現れることも多い。
異常行動、幻覚妄想様言動、不穏、人格変化として現れる。初期に精神疾患として対応されることがある。
全般発作、焦点発作、非けいれん性てんかん重積を含む。最大72%の症例で出現する。
口顔面ジスキネジア、舞踏運動、ジストニアなど多様なパターンで出現する。
頻脈・徐脈・血圧変動・高体温・中枢性低換気などとして出現する。
機能解剖との対応
近時記憶の記銘・保持・想起
情動・行動の統合
辺縁系症候群の中心病変部位。MRIでFLAIR高信号を示すことがある
運動調節
自律神経・体温調節・呼吸中枢
ピットフォール
- ⚠精神疾患としてのみ対応してしまう — 急速進行性なら器質的疾患の除外が必須
- ⚠記憶障害を加齢性変化や認知症として見過ごす
- ⚠譫妄や錯乱を非特異的所見として軽視する
- ⚠髄液正常で自己免疫性脳炎を除外してはならない
- ⚠MRI正常例も約半数ある(特に抗NMDA受容体脳炎、抗LGI1脳炎)
- ⚠感染性脳炎と自己免疫性脳炎は二者択一ではない — HSV脳炎後に抗NMDA受容体脳炎を発症しうる
- ⚠抗体検査の結果を待って免疫療法を開始すべきではない — 臨床的に疑えば早期に治療開始
- ⚠抗てんかん薬単独では痙攣コントロールが困難なことが多い
出典: Graus F, et al. A clinical approach to diagnosis of autoimmune encephalitis. Lancet Neurol 2016;15:391-404. / Titulaer MJ, et al. Lancet Neurol 2013;12:157-165. / Dalmau J, et al. Lancet Neurol 2008;7:1091-1098. / Dalmau J, Graus F. N Engl J Med 2018;378:840-851.