変性疾患

大脳皮質基底核変性症(CBD/CBS)✓ 監修済み

発症様式: 潜行性。中年以降(60 歳代が多い)に発症し、緩徐に進行する。指定難病 7 の診断でも「中年以降の発症・1 年以上続く緩徐進行」が要件。初期症状として行動障害や認知機能障害を呈する例が半数以上で、早期から運動症状を呈するとは限らない。病理確定 CBD は多様な臨床型(CBS・Richardson 症候群・bvFTD・進行性非流暢性失語・後部皮質萎縮症など)を呈し、臨床像から CBD を診断することは難しい。

概要

前頭頭頂葉に強い非対称性の大脳皮質萎縮と、基底核・黒質の変性をきたす神経変性疾患(corticobasal degeneration: CBD)。神経細胞・グリア細胞内に異常リン酸化タウが蓄積し、PSP と同じ 4 リピートタウオパチー(4R tau)に分類される(病理では astrocytic plaque が特徴的)。近年は病理診断名として CBD を用い、臨床症候群としては大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome: CBS)と呼び分ける。重要なのは両者の乖離で、CBS の背景病理が CBD であるのは半数以下にすぎず、残りは Alzheimer 病・PSP・FTLD・Creutzfeldt-Jakob 病など多彩。逆に CBD も CBS 以外に PSP 型・前頭葉型・失語型など多様な臨床像をとる。臨床診断が最も難しい神経疾患のひとつで、確定診断は病理による。無作為化比較試験に基づく治療はなく、対症療法とリハビリが中心。指定難病 7。

代表症候

非対称性の運動症状(筋強剛・無動・ジストニア・ミオクローヌス)大脳皮質症状(四肢失行・皮質性感覚障害・他人の手徴候)非対称性は特徴だが必発ではない(病理確定例で約 73%)全般性認知機能障害・行動変化(アパシー・易怒性・脱抑制)・うつ失語(進行性非流暢性失語など)・発語失行・構音障害

サブタイプ

CBS(大脳皮質基底核症候群)

CBD の典型的な症状として記載された症候群だが、背景病理は CBD 以外(AD・PSP・FTLD・CJD)も多い。病理確定 CBD の臨床型としては最多だが 37% 程度

  • -非対称性の錐体外路徴候(筋強剛・無動・ジストニア・ミオクローヌス)
  • -大脳皮質徴候(四肢失行・皮質性感覚障害・他人の手徴候)
  • -症状優位側の対側に強い、中心回近傍を含む非対称性皮質萎縮
  • -probable(非対称・各群 2 項目)と possible(左右差不問・各群 1 項目)に分かれる(診断基準タブ参照)
PSPS(Richardson 症候群型/PSP 症候群型)

病理は CBD だが臨床的に PSP を思わせる病型。画像でも PSPS-CBD と PSPS-PSP を鑑別することはできない

  • -姿勢保持の不安定性・易転倒性、核上性注視麻痺、対称性の運動障害
  • -体軸性固縮が目立つ
FBS/bvFTD 型(前頭葉型)

前頭側頭型認知症の行動異常型(bvFTD)の臨床像を呈する。精神科外来で問題になる

  • -行動変化(アパシー・性格変化・易怒性・脱抑制・性欲亢進)
  • -遂行機能障害。運動症状は遅れて出現しうる
naPPA 型(進行性非流暢性失語型)

進行性非流暢性失語(PNFA/naPPA)を呈する病型。無言症に進行することがある

  • -非流暢な自発話、失文法、音韻性錯語、発語失行
  • -単語の理解は比較的保たれる

Clinical Pearls

  • 💡CBS と CBD は別物 — CBS は臨床症候群、CBD は病理診断名で、CBS の背景が CBD なのは半数以下。「CBS だから CBD」と診断しない
  • 💡非対称性は CBD を支持するが必発ではない(病理確定例で約 73%)。左右差がなくても CBD を否定しない
  • 💡頭頂葉萎縮が広範・顕著なら CBS-AD を疑う — アミロイド PET・髄液で AD を除外すると治療選択肢が変わりうる
  • 💡核医学は使い分ける — MIBG は CBS で正常(PD との鑑別に有用)、DAT は CBS でも低下し PD と区別できない
  • 💡L-dopa は試すが期待しすぎない — L-dopa 抵抗性が多いが、改訂 Cambridge 基準は「L-dopa の持続的効果がないこと」を必須項目に置いている

症候学

非対称性のパーキンソニズム

一側優位の筋強剛・無動。病理確定 CBD では筋強剛 85%・無動 76% と高頻度。姿勢保持障害と転倒・異常歩行・体軸性固縮も高頻度に伴う。L-dopa 抵抗性のことが多い

臨床的意義: 非対称性は CBD らしさを支持するが、病理確定例でも約 73%(=約 1/4 は非対称でない)。左右差がないことは CBD を否定しない
四肢の失行

肢節運動失行・観念運動失行。「指示された動作ができない」「道具の使い方がぎこちない」。麻痺・失調では説明できない巧緻運動の障害

臨床的意義: 大脳皮質徴候の中核。CBS を疑う手がかりだが、CBS の徴候(失行・皮質性感覚障害・他人の手徴候)の頻度は 57%/27%/30% と必ずしも高くない
他人の手徴候(alien limb)

自分の意思と無関係に手が動く、手が自分のものと感じられない。物をつかむ・顔をなでる等の目的様運動を伴うことがある

臨床的意義: 定義がさまざまで、CBD に特異的な徴候ではない。あれば CBS を支持するが、なくても否定しない
皮質性感覚障害

一次感覚(触覚・痛覚)は保たれるのに、二点識別・皮膚書字覚(graphesthesia)・立体覚(stereognosis)が障害される。頭頂葉皮質の機能障害

臨床的意義: 大脳皮質徴候のひとつ。失算を伴うこともある。一次感覚を確認したうえで皮質性感覚を評価する
ミオクローヌス・ジストニア

四肢のミオクローヌス(顔面にも)、非対称性のジストニア(握りこんだ手= clenched fist など)。病理確定例では頻度は高くない(それぞれ 27%・38%)

臨床的意義: 対症療法の主要な標的。ミオクローヌスにクロナゼパム/レベチラセタム、ジストニアにボツリヌス毒素
認知機能障害・行動変化・うつ

全般性認知機能障害は従来過小評価されてきたが病理確定例の全経過で 70%。行動変化 55%(アパシー・性格変化・易怒性・脱抑制)、うつ 51%。失語(52%)・発語失行・構音障害も多い

臨床的意義: 運動症状に先行することが多い。前頭葉型・失語型では認知・行動・言語障害が前景に立つ
1 / 6症候学 →

出典: 大脳皮質基底核変性症(CBD)診療マニュアル 2022(CBD 診療マニュアル 2022 作成委員会 編/監修:厚生労働科学研究費補助金「神経変性疾患領域の基盤的調査研究」班、umin 神経変性疾患班 HP で全文公開) / Armstrong MJ et al. Criteria for the diagnosis of corticobasal degeneration. Neurology 2013;80:496-503 / Mathew R, Bak TH, Hodges JR. Diagnostic criteria for corticobasal syndrome: a comparative study. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2012;83:405-410 / 難病情報センター「大脳皮質基底核変性症(指定難病 7)」