本態性振戦✓ 監修済み
発症様式: 潜行性。若年成人と高齢の二峰性の発症で、加齢とともに緩徐に進行し振幅が増す。周波数はおおむね 4〜12 Hz で、若年ほど速く(8〜12 Hz)、加齢・進行とともに低下し振幅は増大する。家族歴を伴うことが多い。長い経過をとり、支障の程度は個人差が大きい。
概要
両側性でほぼ左右対称の、上肢の姿勢時・動作時(action)振戦を主徴とする、最も頻度の高い振戦・運動異常症(essential tremor: ET)。ほかの神経症候(ジストニア・失調・パーキンソニズム)を伴わない「単独の振戦症候群」で、罹病期間は 3 年以上。頭部・音声・下肢に及ぶこともある。約半数〜7 割に家族歴があり(常染色体顕性の傾向)、飲酒で軽快しストレス・カフェイン・疲労で増悪する。2018 年の MDS 分類で、単独の ET と、安静時振戦や軽微な神経徴候を伴う「ET-plus」に整理された。診療の要は、① 可逆性の増強生理的振戦(甲状腺・薬剤・カフェイン)を除外すること、② Parkinson 病(安静時・非対称)と区別すること、③ 第一選択の β 遮断薬・プリミドンで対症的に管理し、難治例は MRgFUS/DBS を考えること。指定難病ではない。
代表症候
サブタイプ
MDS 2018 の中核。振戦以外の神経徴候を伴わない
- -両側性・ほぼ対称の上肢 action 振戦(姿勢時・動作時)、3 年以上
- -頭部・音声・下肢に及ぶことがある
- -ジストニア・失調・パーキンソニズムなど他の神経徴候を伴わない
2018 で新設。ET の特徴+意義の不確かな軽微な徴候。将来別疾患に発展しうる例を含む
- -ET の特徴に加え、安静時振戦、タンデム歩行の障害、疑わしいジストニア肢位、軽度の記憶障害などを伴う
- -追加の症候群と診断するには不十分な、軽微な神経徴候
Clinical Pearls
- 💡姿勢時・動作時の両側対称性振戦+飲酒で軽快+家族歴、を見たら本態性振戦を疑う
- 💡ET と診断する前に増強生理的振戦(甲状腺・薬剤・カフェイン)を必ず除外する — 治療可能
- 💡Parkinson 病との区別は「安静時 vs 動作時」「非対称 vs 対称」「無動の有無」。迷えば DAT スキャン
- 💡第一選択は β 遮断薬とプリミドン。難治例は MRgFUS(切開不要・本邦保険適用)・DBS
- 💡日本では ET 適応のアロチノロールが生産中止 — プロプラノロール・プリミドン(いずれも適応外)で代替
症候学
姿勢時振戦(腕を前方に挙げて保持する・手を前に出すと出現)と動作時振戦(コップを口に運ぶ・字を書く・箸を使う・水を注ぐで増悪)からなる両側性の action 振戦。ほぼ左右対称、おおむね 4〜12 Hz。書字の乱れ・食事のこぼしとして支障が出る
頭部の「イエス・イエス」「ノー・ノー」様の揺れ、声の震え(音声振戦)を伴うことがある
ストレス・緊張・カフェイン・疲労・寒冷で増悪し、飲酒(少量のアルコール)で一時的に軽快することが多い
ピットフォール
- ⚠増強生理的振戦を除外する — 甲状腺機能亢進・薬剤(β刺激薬・ステロイド・SSRI 等)・カフェインによる可逆性の振戦。原因除去で改善
- ⚠Parkinson 病と取り違えない — ET は姿勢時・動作時・対称性、PD は安静時・非対称・無動を伴う。迷えば DAT スキャン
- ⚠頭部振戦はジストニアと鑑別する — 頸部ジストニアによるジストニア性頭部振戦(方向性・感覚トリック)と区別
- ⚠若年発症では Wilson 病を除外する — 治療可能。セルロプラスミン・尿中銅・KF 輪
- ⚠アロチノロールは生産中止 — 本邦で ET に保険適応の唯一の β 遮断薬だったが生産中止となった。プロプラノロール・プリミドンで代替
出典: Bhatia KP et al. Consensus Statement on the classification of tremors, from the task force on tremor of the International Parkinson and Movement Disorder Society. Mov Disord 2018;33:75-87. / Zesiewicz TA et al. Practice parameter: therapies for essential tremor. Neurology 2005 ほか AAN 実践パラメータ. / 各薬剤の日本添付文書.