変性疾患

前頭側頭葉変性症(FTLD/FTD)✓ 監修済み

発症様式: 潜行性、40〜65 歳の初老期発症が多い(AD より若く、初老期認知症の主要な原因)。ただし発症年齢は診断基準には含まれず、65 歳以上の発症(later-onset FTD)も実際にある。bvFTD は人格・行動の変化で始まり、本人に病識が乏しく家族が異変に気づく。svPPA は語や物の意味の障害、nfvPPA は非流暢・失文法で始まる。約 40% に家族歴があり、常染色体顕性の遺伝性(C9orf72・GRN・MAPT)を含む。ALS 合併例は進行が速く予後不良。

概要

前頭葉・側頭葉前方の変性による、比較的若年(40〜65 歳の初老期)発症の変性性認知症群(frontotemporal lobar degeneration: FTLD、臨床的には前頭側頭型認知症 FTD)。臨床的には、行動・人格変化を主徴とする行動障害型(bvFTD)と、言語を主徴とする原発性進行性失語(PPA:意味性認知症 svPPA と 進行性非流暢性失語 nfvPPA)に大別される。運動ニューロン障害(ALS)や PSP・CBD と連続するスペクトラムをなす。病理は蓄積蛋白により FTLD-tau/FTLD-TDP/FTLD-FUS に分かれ、家族性では C9orf72(ALS-FTD で最多)・GRN・MAPT 遺伝子変異が関与する。診断は bvFTD が Rascovsky 2011(FTDC 基準)、PPA が Gorno-Tempini 2011 による。記憶が比較的保たれる点・ChEI が無効な点でアルツハイマー病と決定的に異なる。指定難病 127(bvFTD・意味性認知症が対象)。

代表症候

比較的若年(40〜65 歳)発症、記憶は初期に比較的保たれる行動障害型(bvFTD):脱抑制・アパシー・共感性低下・常同行動・食行動異常原発性進行性失語(PPA):意味性認知症(svPPA)・進行性非流暢性失語(nfvPPA)運動ニューロン障害(ALS)合併(FTD-MND)・PSP/CBD との連続性ChEI が無効(AD と異なる)、家族性は C9orf72・GRN・MAPT

サブタイプ

行動障害型 FTD(bvFTD)

最も多い病型。人格・行動の変化が前景で、精神疾患と誤診されやすい

  • -早期の脱抑制(社会的に不適切な言動)、アパシー/無関心、共感性・同情の低下
  • -常同・強迫/儀式的行動、食行動異常(過食・甘いもの嗜好・口唇傾向)
  • -遂行機能障害(記憶・視空間は比較的保たれる)
意味性認知症(svPPA/semantic variant PPA)

語・物の「意味」が失われる。病理は多くが FTLD-TDP。指定難病 127 の対象

  • -呼称障害と単語理解の障害、物品の知識の障害
  • -復唱・発話の流暢性・文法は保たれる。表層失読/失書
  • -左優位の側頭葉前方の萎縮
進行性非流暢性失語(nfvPPA/nonfluent-agrammatic PPA)

非流暢・失文法・発語失行。PSP/CBD と重なることがある(FLTD-tau)

  • -努力性・非流暢な発話、失文法、発語失行
  • -複雑な構文の理解障害(単語理解・物品知識は保たれる)
  • -左前頭葉弁蓋部・島の萎縮
FTD-MND(運動ニューロン障害合併型)

FTD と ALS の連続。C9orf72 が代表。予後が悪化する

  • -bvFTD 等に上位/下位運動ニューロン徴候(筋力低下・筋萎縮・線維束性収縮・球症状)が加わる
  • -嚥下・呼吸障害の進行が速く予後不良。ALS に準じた管理を要する

Clinical Pearls

  • 💡FTLD に ChEI は無効・むしろ悪化 — AD との決定的な違い。まず AD との鑑別を確実にする
  • 💡中年期の「人が変わった」+記憶は保たれる、を見たら bvFTD を疑う — 精神疾患と誤診されやすい
  • 💡前頭・側頭葉前方の(しばしば非対称な)萎縮が手がかり — AD の海馬・頭頂側頭とは分布が違う
  • 💡ALS 徴候(線維束性収縮・球症状)を必ず診る — FTD-MND は予後が大きく悪化する
  • 💡家族性(C9orf72・GRN・MAPT)を念頭に遺伝カウンセリング — とくに家族歴・ALS 合併・若年発症

症候学

行動・人格変化(bvFTD)

脱抑制(社会的に不適切な言動・衝動買い・万引き等)、アパシー/無関心、共感性・思いやりの低下、常同・強迫/儀式的行動、食行動異常(過食・甘味嗜好・異食)。本人の病識が乏しい

臨床的意義: bvFTD の中核。中年期の「人が変わった」で、うつ病・双極性障害・強迫症と誤診されやすい
言語障害(PPA)

意味性認知症(svPPA):語・物の意味の喪失、呼称障害、単語理解障害。進行性非流暢性失語(nfvPPA):非流暢・失文法・発語失行

臨床的意義: PPA では言語障害が初発・主症状。変性の分布(側頭葉前方 vs 前頭葉弁蓋部)と対応する
遂行機能障害・記憶の相対的保持

前頭葉性の遂行機能障害・脱抑制。エピソード記憶・視空間機能は初期には比較的保たれる

臨床的意義: 「記憶障害中心の AD」との違い。記憶が保たれるのに人格・行動が大きく変わるのが FTLD らしさ
運動症状(FTD-MND・パーキンソニズム)

運動ニューロン障害(筋力低下・筋萎縮・線維束性収縮・球症状)、あるいは PSP/CBD 様のパーキンソニズム・失行

臨床的意義: FTD-MND は予後不良。PSP/CBD との重なり(FLTD-tau)は運動症候を伴う

ピットフォール

  • ChEI を AD と同じ感覚で使わない — FTLD に無効で行動症状を悪化させうる。メマンチンも無効
  • 精神疾患と誤診しない — 中年期の人格変化・脱抑制・アパシー・常同はうつ病・双極性障害・強迫症と紛らわしい。進行性・前頭側頭葉萎縮を確認
  • 運動ニューロン障害(FTD-MND)を見逃さない — ALS 合併で予後が大きく悪化。筋力低下・線維束性収縮・球症状を評価
  • 記憶が保たれることを「認知症でない」と誤らない — FTLD は初期に記憶が比較的保たれる。人格・行動・言語の変化で疑う
  • 指定難病 127 は bvFTD・意味性認知症が対象 — すべての FTLD 亜型が助成対象ではない
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出典: Rascovsky K et al. Sensitivity of revised diagnostic criteria for the behavioural variant of frontotemporal dementia. Brain 2011;134:2456-2477. / Gorno-Tempini ML et al. Classification of primary progressive aphasia and its variants. Neurology 2011;76:1006-1014. / 日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン』(FTLD の章). / 難病情報センター「前頭側頭葉変性症(指定難病 127)」.