感染症・炎症

単純ヘルペス脳炎✓ 監修済み

発症様式: 急性(数日〜1週間)。前駆症状として発熱・頭痛が先行し、その後急速に意識障害・精神症状・痙攣が出現する。

概要

単純ヘルペスウイルス(主にHSV-1)による急性壊死性脳炎(herpes simplex encephalitis: HSE)。側頭葉内側・辺縁系を好発部位とし、発熱・意識障害・精神症状・痙攣が特徴的。未治療では致死率が約70%だったが、アシクロビル導入後は致死率<20%に改善。早期投与開始が予後を大きく左右する(治療開始の遅延が転帰悪化と関連)。

代表症候

発熱+意識障害+精神症状+痙攣の組み合わせ側頭葉内側・辺縁系の出血壊死性病変MRIで側頭葉内側のFLAIR/DWI高信号髄液HSV DNA PCRが確定診断の標準疑い段階でのアシクロビル開始が予後を左右する

Clinical Pearls

  • 💡発熱+意識障害+精神症状があれば、まずHSEを疑い、アシクロビルを開始する
  • 💡MRI正常・PCR陰性でも初期には否定できない — 臨床的に疑えばアシクロビルを継続し再検する
  • 💡側頭葉内側のFLAIR高信号+LPDsの組み合わせは診断的価値が高い
  • 💡HSE治療後に精神症状が再燃した場合、自己免疫性脳炎(特に抗NMDA受容体抗体脳炎)を考慮する
  • 💡島皮質病変例では自律神経機能障害(不整脈・血圧変動)に注意し、心電図モニタリングを行う

症候学

発熱

38〜40℃の高熱。前駆期から認めることが多い。

臨床的意義: 脳炎を疑う最も重要な手がかりの一つ。発熱+意識障害は脳炎を鑑別に入れる。
意識障害

傾眠から昏睡まで。急速に進行する。

臨床的意義: 脳実質障害の反映。進行速度が予後と相関する。
精神症状

人格変化、異常行動、幻覚、失見当識。

臨床的意義: 側頭葉・辺縁系の障害を反映。精神科疾患と誤認されることがある。
痙攣発作

焦点起始発作が多く、焦点起始両側強直間代発作(FBTC)に進展することもある。

臨床的意義: 側頭葉病変に由来する。初発症状が痙攣のこともある。
失語

優位半球の側頭葉障害で出現。

臨床的意義: 神経巣症状として重要。脳血管障害との鑑別が必要。
頭痛

びまん性または前頭〜側頭部の頭痛。

臨床的意義: 髄膜刺激や脳浮腫を反映する。

ピットフォール

  • 精神症状が前景の場合、精神科疾患と誤認して治療が遅れることがある
  • MRIは発症初期(24時間以内)では異常を示さないことがある — MRI正常でも否定しない
  • 髄液PCRは発症初期に偽陰性がありうる — 臨床的に否定できなければ24〜48時間後に再検する
  • 高齢者では非典型的な経過をとることがある
  • 自己免疫性辺縁系脳炎との鑑別は重要だが、鑑別待ちでアシクロビルを遅らせない
  • ステロイド併用はルーチン推奨されない — DexEnceph 試験(Lancet Neurology 2025)で primary outcome(26 週時点の言語記憶)有意差なし。安全性は確認されたが、脳浮腫・脳ヘルニアリスクが高い症例での個別判断にとどめる
  • HSE 治療後の精神症状・運動異常の再燃は自己免疫性脳炎(特に抗 NMDA 受容体抗体脳炎)を疑う — HSE 後 2-12 週で出現、小児に多い。複数の自己抗体(NMDAR/D2R/GABAA/MOG/GFAP/LGI1/CASPR2 等)を検査
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出典: Gnann JW Jr, Whitley RJ. Herpes simplex encephalitis: an update. Curr Infect Dis Rep. 2017;19(3):13. / 日本神経学会 単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017.