特発性炎症性筋疾患(多発筋炎・皮膚筋炎ほか)✓ 監修済み
発症様式: 亜急性〜慢性(数週〜数ヶ月)。「階段が上れない」「腕が上がらない」で受診する。PM は 40〜60 代、DM は二峰性(小児と 40〜60 代)。IBM は高齢男性でより緩徐。抗 MDA5 抗体陽性 ADM のように、筋症状に乏しいまま急速進行性間質性肺炎で発症する型は経過が急速で予後不良。
概要
自己免疫機序による骨格筋の炎症性疾患群(idiopathic inflammatory myopathies: IIM)。近位筋優位の筋力低下と CK 上昇を共通の入り口とするが、内実は多彩で、多発筋炎(PM)・皮膚筋炎(DM)・無筋症性皮膚筋炎(ADM)・免疫介在性壊死性ミオパチー(IMNM)・抗合成酵素抗体症候群(ASS)・封入体筋炎(IBM)などに分かれる。近年は筋炎特異的自己抗体によって臨床病型・予後・合併症・治療反応性が均一な集団にクラスタリングできるようになり、抗体を軸に病型を捉えるのが現代的アプローチ。診断・治療で最も重要なのは、この「近位筋力低下+CK 上昇」のバケツの中で、急速進行性間質性肺炎(抗 MDA5)・悪性腫瘍(抗 TIF1-γ)・治療抵抗性(IBM)・スタチン関連(抗 HMGCR)を振り分けること。指定難病 50(皮膚筋炎/多発性筋炎)。
代表症候
サブタイプ
皮疹を欠く近位筋炎。近年は過剰診断が指摘され、実際には IMNM・ASS・IBM だったという例が多い。「皮疹のない筋炎=PM」と安易に呼ばず、抗体・病理で他型を除外する
- -近位筋優位の対称性筋力低下、CK 上昇。皮疹なし
- -筋生検で筋線維への CD8+ T 細胞浸潤(筋壊死を伴わない)
特徴的皮疹を伴う筋炎。悪性腫瘍・間質性肺炎の合併に最も注意を要する
- -ヘリオトロープ疹・Gottron 徴候/丘疹が診断的。逆 Gottron・mechanic's hands・V 徴候・ショール徴候・爪囲紅斑も
- -筋生検で束周囲萎縮(perifascicular atrophy)
- -抗 Mi-2(典型的皮疹)・抗 TIF1-γ/NXP2(悪性腫瘍)・抗 MDA5(ADM・急速進行性 ILD)・抗 SAE
皮疹はあるが筋症状を欠く/乏しい。抗 MDA5 抗体陽性 ADM は急速進行性 ILD で致命的になりうる最重要型
- -DM の皮疹があり、筋力低下・CK 上昇がない(または軽微)
- -本邦では抗 MDA5 抗体陽性が欧米より多く(20〜35%)、急速進行性間質性肺炎を高頻度に合併
壊死・再生線維が主体で炎症細胞浸潤に乏しい。重症・難治で高 CK。抗体で 2 型に分かれる
- -抗 SRP 抗体:重症・難治性・再発性。ステロイド抵抗性で早期から IVIG・免疫抑制薬を要する
- -抗 HMGCR 抗体:一部はスタチン関連。スタチン中止だけでは改善しないことがある
- -筋生検で壊死線維・再生線維の多発+補体沈着
- -【抗ミトコンドリア抗体(AMA)陽性ミオパチー】壊死性の像をとりうる別系統。診療ガイドラインの筋炎特異的自己抗体の一覧には含まれないが、慢性経過で心病変(不整脈・伝導障害・心筋症)を高頻度に伴うのが特徴。原発性胆汁性胆管炎(PBC)合併もある(Maeda Brain 2012)
抗 ARS 抗体(抗 Jo-1 ほか)陽性。筋炎より間質性肺炎・関節炎が前景のこともある
- -筋炎・間質性肺炎・多関節炎・レイノー現象・発熱・機械工の手(mechanic's hands)
- -初期のステロイド反応は良いが再燃率が高い。非 Jo-1(抗 PL-7 等)は予後不良の傾向
免疫療法抵抗性 — 免疫抑制を強めても無効。ステロイドが効かない筋炎で必ず想起する
- -高齢男性、緩徐進行。膝伸展筋(大腿四頭筋)・手指屈筋優位の非対称性萎縮
- -筋生検で縁取り空胞(rimmed vacuole)。抗 cN1A 抗体
Clinical Pearls
- 💡「近位筋力低下+CK 上昇」を入り口に、抗体で病型を振り分けるのが現代の診かた — 抗 MDA5(ILD)・抗 TIF1-γ(癌)・抗 SRP/HMGCR(難治性壊死性)・抗 ARS(ASS)
- 💡皮疹だけの ADM を「軽症」と思わない — 抗 MDA5 陽性なら急速進行性 ILD で命に関わる
- 💡ステロイドが効かない筋炎では IBM を疑う — 免疫療法抵抗性で、免疫抑制を強めても副作用だけが残る
- 💡治療前に治療可能な mimic(甲状腺・薬剤性・スタチン・電解質)を必ず除外する
- 💡CK と筋力は両方みる — 効くときは CK が先に下がり、悪化時は CK 上昇が筋力低下に先行する
症候学
体幹筋・四肢近位筋(肩帯:三角筋、骨盤帯:腸腰筋・大腿四頭筋)が障害され、遠位筋は比較的保たれる。頸部屈筋の弱さも本疾患を示唆する。IBM では大腿四頭筋・手指屈筋の非対称性障害が特徴
ヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑)、Gottron 徴候/丘疹(手指関節背面の角化性紅斑・丘疹)が診断的。ほかに逆 Gottron・mechanic's hands・V 徴候・ショール徴候・爪囲紅斑・ポイキロデルマ(多形皮膚萎縮)
約半数に安静時痛・把握痛を認める
咽頭筋の収縮力低下・食道入口部の開大障害による
乾性咳嗽・呼吸困難。抗 MDA5 抗体陽性 ADM では急速進行性 ILD となりうる
ピットフォール
- ⚠抗 MDA5 抗体陽性 ADM の急速進行性間質性肺炎を見逃さない — 筋症状がなくても致命的。皮疹+呼吸器症状+フェリチン高値に注意
- ⚠皮膚筋炎では悪性腫瘍を検索する — 特に抗 TIF1-γ・NXP2、40 歳以上、発症 3 年以内
- ⚠封入体筋炎(IBM)は免疫療法抵抗性 — ステロイドが効かない筋炎で想起。大腿四頭筋・手指屈筋の非対称萎縮、縁取り空胞
- ⚠スタチン関連(抗 HMGCR)IMNM はスタチン中止だけで改善しないことがある — 高 CK+近位筋力低下で薬剤歴を確認
- ⚠ステロイドミオパチーと再燃を取り違えない — CK 正常のまま筋力低下が進むなら疑う。EMG の安静時放電の有無が鑑別点
- ⚠抗ミトコンドリア抗体(AMA)陽性ミオパチーでは心臓を必ず評価する — 心病変(不整脈・伝導障害・心筋症)を高頻度に伴い、心不全・伝導障害が筋症状に先行することもある。心電図・心エコーを行う
- ⚠CK 正常でも筋疾患は否定できない — 慢性期・高度筋萎縮では低値のことがある。甲状腺機能・薬剤歴も必ず確認
出典: 多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン 2025(日本神経学会監修、南江堂。内容は無料公開の前身 2020 年暫定版で確認). / Lundberg IE et al. 2017 EULAR/ACR classification criteria for adult and juvenile idiopathic inflammatory myopathies. Ann Rheum Dis. 2017;76:1955-1964. / 指定難病 50「皮膚筋炎/多発性筋炎」統一診断基準(2019). / Maeda MH et al. Inflammatory myopathies associated with anti-mitochondrial antibodies. Brain. 2012;135:1767-1777.