運動ニューロン疾患

筋萎縮性側索硬化症(ALS)/ 運動ニューロン疾患✓ 監修済み

発症様式: 慢性進行性(数ヶ月〜数年)。50〜70代に好発、男性にやや多い。片手の筋萎縮・巧緻運動障害で始まることが多い(上肢発症型)。球発症型は予後不良。

概要

上位運動ニューロン(UMN)と下位運動ニューロン(LMN)が選択的かつ進行性に変性する神経変性疾患。筋萎縮性側索硬化症(ALS)が最も代表的である。感覚障害や膀胱直腸障害を伴わないことが特徴で、診断には他疾患の除外が重要である。

代表症候

UMN徴候(腱反射亢進、痙性、Babinski陽性)とLMN徴候(筋萎縮、線維束性収縮)の共存進行性の筋力低下・筋萎縮感覚障害なし膀胱直腸障害なし(末期を除く)球症状(構音障害、嚥下障害)を伴う型がある

サブタイプ

古典型 ALS(Charcot 型)

最多。まずこの像を基準にする

  • -UMN 徴候と LMN 徴候が四肢・球に共存
  • -一側上肢遠位から始まり他肢・球へ進展することが多い
  • -感覚・膀胱直腸は保たれる
球麻痺発症型(progressive bulbar palsy 発症)

構音・嚥下障害で発症。予後不良

  • -構音障害・嚥下障害・舌萎縮/線維束性収縮で発症
  • -誤嚥性肺炎・呼吸障害を早期にきたしやすい
  • -進行が速く予後不良の傾向
進行性筋萎縮症(PMA)/原発性側索硬化症(PLS)

LMN のみ/UMN のみの亜型

  • -PMA:臨床上 LMN 徴候のみ(UMN 徴候を欠く)
  • -PLS:UMN 徴候のみ。進行が緩徐で予後は比較的良好
  • -経過中に古典型 ALS へ移行することがある
flail arm/leg 型・ALS-FTD

緩徐型/認知症合併型

  • -flail arm(連枷腕)・flail leg:上肢近位/下肢の LMN 優位、進行が比較的緩徐
  • -ALS-FTD:前頭側頭型認知症を合併(約 15%、C9orf72 が代表)
  • -行動・言語の変化や遂行機能障害を伴う

Clinical Pearls

  • 💡「筋萎縮+腱反射亢進」の共存がALS診断の核心。この矛盾した所見を見つけたら積極的に疑う
  • 💡治療可能なALS mimicを必ず除外する:MMN(IVIg有効)、頸椎症(手術)、甲状腺機能異常
  • 💡ALSの告知は患者の人生を大きく変える。確定診断に至るまで慎重に評価し、多職種チームで支援体制を構築する

症候学

筋力低下・筋萎縮

一側上肢遠位から始まり、対側・他肢に波及する。Split hand(母指球優位の萎縮)が特徴的。

臨床的意義: LMN障害の直接的所見。分布パターンが診断の鍵となる。
線維束性収縮(fasciculation)

筋表面のピクつき。安静時にも認める。

臨床的意義: LMN障害を反映。筋萎縮を伴う場合はALSを考慮する。
腱反射亢進

萎縮した筋でも腱反射が亢進している。Babinski・Hoffmann陽性。

臨床的意義: 「萎縮+腱反射亢進」の矛盾がUMN+LMN共存の証拠であり、ALS診断の核心。
球症状

構音障害(鼻声、不明瞭)、嚥下障害、舌萎縮・線維束性収縮。

臨床的意義: 球発症型の早期発見に重要。嚥下障害は誤嚥性肺炎のリスク。
呼吸障害

横隔膜筋力低下。初期は臥位での呼吸困難として現れる。

臨床的意義: 致命的な合併症。FVCの経時的モニタリングが必須。

ピットフォール

  • 「萎縮しているのに腱反射が亢進している」— この矛盾がALSの診断の鍵。見逃さない
  • 頸椎症性脊髄症はALSと最も紛らわしい — 上肢LMN+下肢UMN徴候が共通。MRIで除外
  • 多巣性運動ニューロパチー(MMN)は治療可能なALS mimic — 抗GM1抗体、伝導ブロックを確認
  • 診断確定までの期間は平均12ヶ月 — 初診で確定できないことが多く、経時的な進行の確認が必要
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出典: 日本神経学会『筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023』(南江堂). / Shefner JM et al. A proposal for new diagnostic criteria for ALS (Gold Coast). Clin Neurophysiol 2020;131:1975-1978. / 難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(指定難病 2)」. / Kiernan MC, et al. Amyotrophic lateral sclerosis. Lancet. 2011;377(9769):942-955.