多系統萎縮症(MSA)✓ 監修済み
発症様式: 潜行性。中年以降(50〜60 歳代)に発症し、緩徐だが Parkinson 病より速く進行する。自律神経障害(起立性低血圧・頻尿/尿失禁・男性の勃起障害)が初発〜早期に目立つのが特徴。RBD は発症前から出現しうる。生命予後は喉頭喘鳴・早期の高度自律神経障害・嚥下障害で不良となり、生存期間中央値は概ね 6〜10 年とされる。
概要
αシヌクレインがオリゴデンドログリアの細胞質内に蓄積(glial cytoplasmic inclusion: GCI、Papp-Lantos 小体)することを特徴とする孤発性の神経変性疾患(multiple system atrophy: MSA)。自律神経障害を軸に、L-ドパ反応性に乏しいパーキンソニズム(MSA-P)と小脳性運動失調(MSA-C)が加わる。優位な運動症状で MSA-P/MSA-C に分けるが、両者は連続体で経過中に重なる。日本を含むアジアでは MSA-C が多く、欧米では MSA-P が多いという地域差がある。診断は 2022 年に改訂された MDS 診断基準(Wenning 2022)に基づく。喉頭喘鳴(stridor)と睡眠時無呼吸による突然死が予後を規定し、Parkinson 病との鑑別(MIBG 心筋シンチ・red flags)が実務の要。指定難病 17。
代表症候
サブタイプ
欧米で多い病型。Parkinson 病との鑑別が最大の課題
- -無動・固縮を主体とするパーキンソニズム。安静時振戦は PD より目立たず、姿勢時・動作時のジャーキーな振戦が出やすい
- -L-ドパ反応性は乏しい(一部で部分反応、多くは一過性)
- -頭部 MRI で被殻の萎縮・T2 での被殻外側縁の高信号(slit-like hyperintensity)
日本を含むアジアで多い病型。孤発性の小脳失調症の鑑別で重要
- -小脳性の歩行・四肢失調、構音障害、眼球運動障害
- -頭部 MRI で橋の十字徴候(hot cross bun sign)、中小脳脚の萎縮・高信号、小脳・橋萎縮
- -孤発性で非遺伝性の脊髄小脳変性症として発症し、経過中に自律神経障害・錐体外路症状が加わる
Clinical Pearls
- 💡喉頭喘鳴・睡眠時無呼吸を必ず問診する — MSA の突然死の最大要因で、拾えば介入できる。「昼間の呼吸は問題ない」で安心しない
- 💡早期からの自律神経障害(起立性低血圧・排尿障害・勃起障害)+ L-ドパが効きにくいパーキンソニズムは MSA を疑う最大の手がかり
- 💡MIBG 心筋シンチで PD/DLB と分ける — MSA では保たれ、PD/DLB では低下する。DAT スキャンは変性の有無しか分からず病型は決められない
- 💡姿勢が鑑別を語る — MSA は首下がり(antecollis)、PSP は頸部後屈(retrocollis)、PD は前傾
- 💡孤発性・成人発症の小脳失調を見たら MSA-C を念頭に置き、自律神経障害と橋の十字徴候を確認する
症候学
起立性低血圧(失神・転倒・立ちくらみ)、排尿障害(尿意切迫・頻尿・尿失禁・残尿・尿閉)、男性の勃起障害、便秘、発汗低下。排尿障害・勃起障害は初発症状のこともある
無動・固縮主体。安静時振戦は乏しく、姿勢/動作時のジャーキーな振戦。L-ドパ反応性に乏しい
歩行失調・四肢失調・小脳性構音障害・眼球運動障害(注視方向性眼振・断綴性追従)
声帯外転障害による吸気性喘鳴。夜間・睡眠時に出やすい。閉塞性・中枢性の睡眠時無呼吸も合併しうる
RBD(夢の演技行動)を高頻度に合併し発症前から出現しうる。情動失禁(強制笑い・強制泣き)、抑うつも多い
ピットフォール
- ⚠喉頭喘鳴(stridor)・睡眠時無呼吸を見逃さない — 突然死の原因。夜間の異常呼吸音を必ず問診し、疑えば睡眠検査・喉頭評価へ
- ⚠Parkinson 病との鑑別 — L-ドパ反応性の乏しさ・早期の自律神経障害・red flags(頸部前屈・情動失禁・冷たい手足)。MIBG は MSA で保たれ PD/DLB で低下
- ⚠孤発性・成人発症の小脳失調では MSA-C を念頭に — 遺伝性 SCD・二次性失調を除外する
- ⚠起立性低血圧の治療は臥位高血圧を招く — 昇圧薬は就寝前を避け、臥位・立位で血圧をモニター
- ⚠排尿障害に安易に抗コリン薬を使わない — 残尿を来しやすい。まず残尿測定、多ければ清潔間欠導尿、過活動には β3 刺激薬
出典: Wenning GU et al. The Movement Disorder Society Criteria for the Diagnosis of Multiple System Atrophy. Mov Disord 2022;37:1131-1148. / Gilman S et al. Second consensus statement on the diagnosis of multiple system atrophy. Neurology 2008;71:670-676. / 日本神経学会監修『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン 2018』(南江堂). / 難病情報センター「多系統萎縮症(指定難病 17)」.