正常圧水頭症(NPH)✓ 監修済み
発症様式: 潜行性・緩徐進行性。iNPH は 60〜70 歳以降の高齢者に多い。歩行障害(小刻み・すり足・開脚)で気づかれ、のちに認知障害・排尿障害が加わることが多い。続発性はくも膜下出血・髄膜炎・頭部外傷などの後に発症する。
概要
髄液圧が正常範囲にもかかわらず脳室が拡大し、歩行障害・認知障害・排尿障害の 3 徴(Hakim 三徴)を呈する病態。シャント術で改善しうる「治療可能な認知症・歩行障害」であり、見逃さないことが重要。明らかな先行疾患のない特発性(idiopathic NPH: iNPH、高齢者に多い)と、くも膜下出血後・髄膜炎後・外傷後などの続発性(sNPH)に分ける。歩行障害が最初に出て最も改善しやすい。診断は 3 徴+脳室拡大(Evans index >0.3)に、DESH(高位円蓋部・正中の脳溝狭小化+シルビウス裂拡大)・脳梁角の鋭角化などの画像所見と、髄液排除試験(タップテスト)の反応を組み合わせて行う。日本では『特発性正常圧水頭症診療ガイドライン 第3版(2020)』が診療の基準。
代表症候
サブタイプ
高齢者に多い。まずこの像を基準にする
- -明らかな先行疾患がなく高齢(60〜70 歳以降)に発症
- -3 徴+脳室拡大(Evans index >0.3)+DESH
- -ガイドライン(第3版)に沿ってシャント適応を判断
先行疾患がある
- -くも膜下出血後・髄膜炎後・頭部外傷後などに発症
- -先行疾患による髄液吸収障害が背景
- -原疾患の管理とシャント術
Clinical Pearls
- 💡「小刻み・開脚で足が床に張り付く歩行(磁石様)+脳室拡大」を見たら NPH を疑う — 治療可能
- 💡歩行障害が最初で最も改善しやすい。3 徴を待たず早期にタップテストを
- 💡DESH と脳梁角の鋭角化が iNPH を支持。単なる脳室拡大(萎縮)と区別する
- 💡タップテストが陰性でも強く疑えば持続ドレナージ試験を
- 💡Evans index だけで決めない — 脳萎縮でも脳室は相対的に拡大する。DESH・脳梁角と合わせて iNPH を判断する
- 💡パーキンソニズムを伴う iNPH は、必要に応じて DAT スキャンで PD/レビー小体型認知症の併存を評価 — 併存があるとシャント効果が減弱するため適応を慎重に(ただし歩行は部分的に改善しうる)
症候学
小刻み・すり足・開脚(wide-based)で、足が床に張り付くように前へ出にくい(磁石様歩行)。方向転換が拙劣で易転倒。すくみ足を伴う
注意・遂行機能・処理速度の低下、意欲低下(apathy)。記憶は比較的保たれることが多い
尿意切迫・頻尿から進行すると切迫性尿失禁
ピットフォール
- ⚠3 徴が揃うまで待つ — 歩行障害が最初・最も改善しやすい。歩行障害+脳室拡大+DESH で早期に評価する
- ⚠パーキンソン病・PSP・血管性パーキンソニズムと取り違える — L-dopa 反応・非対称・眼球運動・画像(DESH/脳梁角)で鑑別し、不要なシャントを避ける
- ⚠併存する神経変性疾患を評価せずにシャントする — パーキンソン病・レビー小体型認知症・AD の併存があるとシャント効果が減弱する。パーキンソニズムがあれば必要に応じて DAT スキャン等で併存を評価し、期待効果と適応を慎重に判断する
- ⚠Evans index だけで脳室拡大を iNPH とする — 単純な脳萎縮に伴う代償性(ex vacuo)拡大でも Evans index は上がる。DESH(高位円蓋部の脳溝狭小化)・脳梁角と合わせて判断する
- ⚠タップテスト陰性で即座に否定する — 感度は中等度。強く疑えば持続ドレナージ試験を行う
- ⚠シャント後の硬膜下血腫・過剰排液を見逃す — 頭痛・傾眠・悪化で疑い、圧を再調整する
出典: 日本正常圧水頭症学会『特発性正常圧水頭症診療ガイドライン 第3版』(2020、メディカルレビュー社). / Nakajima M et al. Guidelines for Management of iNPH (Third Edition). Neurol Med Chir 2021;61:63-97. / SINPHONI・SINPHONI-2 試験.