脊髄梗塞✓ 監修済み
発症様式: 突然〜急性。大動脈疾患・大動脈手術(瘤修復・ステントグラフト・解離)が最重要の原因で、そのほか全身性低灌流(心停止・出血性ショック)、動脈硬化・塞栓、線維軟骨塞栓(fibrocartilaginous embolism)、血管炎、減圧症(潜水)、脊椎手術・血管内治療の合併症などがある。特発性も少なくない。硬膜動静脈瘻はうっ血性脊髄症で機序が異なるが鑑別に挙がる。
概要
脊髄を灌流する動脈の虚血により生じる梗塞(spinal cord infarction)。脳梗塞に比べ稀で、脳卒中全体の 1〜2% 程度とされる。前脊髄動脈(anterior spinal artery: ASA)は脊髄の前 2/3 を、左右 1 対の後脊髄動脈(posterior spinal artery: PSA)は後 1/3(後索)を灌流する。ASA は分節動脈(肋間動脈・腰動脈)から分岐する根髄動脈で補われ、胸腰髄では Adamkiewicz 動脈(大前根髄動脈、多くは T9〜L2・左側優位)が最大の供給路となる。側副に乏しい中〜下位胸髄は watershed(分水嶺)領域として虚血に脆弱。好発部位は胸髄〜胸腰髄で、なかでも下位胸髄・脊髄円錐に多く、頸髄は相対的に少ない(Adamkiewicz 動脈への依存と分水嶺構造を反映)。突然発症の対麻痺と解離性感覚障害を典型とし、圧迫性・炎症性脊髄症の除外が診断の要になる。無作為化比較試験に基づく特異的治療はなく、原因検索と全身管理が中心となる。
代表症候
Clinical Pearls
- 💡「突然完成する対麻痺+温痛覚だけの障害(深部覚は残る)」を見たら前脊髄動脈症候群を疑う
- 💡急性対麻痺の初手は緊急脊椎 MRI で圧迫を外すこと。梗塞の診断は圧迫・炎症を除外してから
- 💡発症直後の MRI 正常は梗塞を否定しない。DWI も早期は陰性のことがあり、再撮像で確定することがある
- 💡背景に大動脈解離が隠れることがある。突然の背部痛・血圧左右差では造影 CT で大動脈を評価してから抗血栓薬を考える
症候学
病変レベル以下の運動麻痺が数分〜数時間で完成する。頸髄なら四肢麻痺、胸腰髄なら対麻痺。急性期は脊髄ショックのため弛緩性・腱反射低下を示し、数日〜数週で痙性・腱反射亢進へ移行する
前 2/3 を灌流する ASA の梗塞では、脊髄視床路(温痛覚)が障害される一方、後索(深部覚・振動覚・触覚の一部)は PSA 領域として保たれる。結果として「温痛覚は障害されるが位置覚・振動覚は残る」解離が生じる
発症時に背部痛・体幹の帯状痛・放散痛を伴うことが多い。突然の激しい背部痛は大動脈解離の合併も想起させる
尿閉・便通障害。急性期から出現しやすい
ピットフォール
- ⚠急性対麻痺ではまず緊急脊椎 MRI で圧迫性病変(腫瘍・膿瘍・血腫)を除外する — 治せる原因を見逃さない
- ⚠脊髄ショック期は弛緩性・腱反射低下を示し GBS と紛らわしい — 感覚レベル・解離性感覚障害・膀胱直腸障害が鑑別点
- ⚠発症数時間は MRI(DWI 含む)が陰性のことがある — 疑えば時間をおいて再撮像する
- ⚠突然の背部痛を伴う脊髄梗塞では大動脈解離を必ず疑う — 解離を否定せず抗血栓薬を始めると致命的
- ⚠横断性脊髄炎との鑑別が治療方針を分ける — 迷えば脊髄炎として免疫療法を先行させる判断もある
出典: Zalewski NL et al. Characteristics of Spontaneous Spinal Cord Infarction and Proposed Diagnostic Criteria. JAMA Neurol 2019;76:56-63. / Nedeltchev K et al. Long-term outcome of acute spinal cord ischemia syndrome. Stroke 2004;35:560-565.