中枢神経の自己免疫性疾患

スティッフパーソン症候群(SPS)✓ 監修済み

発症様式: 緩徐に発症し、進行性。中年(30〜60 歳代)に多く、女性にやや多い。体幹のこわばり・腰痛・歩行のぎこちなさで始まり、徐々に四肢近位へ広がる。1 型糖尿病・橋本病・悪性貧血・白斑などの自己免疫の既往/合併が手がかりになる。急性・亜急性で脳幹症状を伴う重症例(PERM)や、一肢に限局する型(stiff-limb syndrome)もある。

概要

GABA 系抑制の障害により、体幹・四肢近位を主体とする持続的な筋硬直と、刺激で誘発される有痛性の筋spasmをきたす稀な自己免疫性神経疾患(stiff-person syndrome: SPS)。多くで抗 GAD65(グルタミン酸脱炭酸酵素)抗体が高力価で陽性となる。GAD は GABA 合成酵素であり、抑制性入力の低下が主動筋・拮抗筋の同時収縮(co-contraction)を生む。当初「スティッフマン症候群」と呼ばれたが女性にも多く現名称になった。1 型糖尿病・自己免疫性甲状腺疾患など他の自己免疫を高頻度に合併する。傍腫瘍性(抗 amphiphysin 抗体、乳癌等)や、より重症の PERM(抗 glycine 受容体抗体)などスペクトラムをなす。心因性・不安障害と誤診されやすいが、抗体・筋電図で裏づけられる。現時点で日本の指定難病ではない(全国疫学調査が進行中)。

代表症候

体幹(傍脊柱筋・腹筋)優位の持続的な筋硬直 → 腰椎前弯の増強音・接触・驚愕・情動で誘発される有痛性の筋spasm主動筋・拮抗筋の同時収縮(EMG で持続的運動単位活動)抗 GAD65 抗体が高力価で陽性(血清・髄液)課題特異的恐怖(転倒への恐怖で動けない)— 心因と誤診されやすい

サブタイプ

古典的 SPS(classic)

最も多い型。体幹軸性の硬直+誘発性spasm。抗 GAD65 抗体が高力価

  • -傍脊柱筋・腹筋の持続硬直で腰椎前弯が増強
  • -刺激誘発性の有痛性spasm、突然の転倒
  • -1 型糖尿病など他の自己免疫の合併が多い
限局型(stiff-limb syndrome)

一肢(多くは下肢)に限局。体幹症状は乏しい

  • -一肢の硬直・spasm・ジストニア様肢位
  • -経過中に古典型へ広がることがある
PERM(進行性脳脊髄炎・筋硬直・ミオクローヌス)

抗 glycine 受容体抗体が関連。SPS スペクトラムで最も重症

  • -筋硬直・spasmに加え、脳幹症状(眼球運動障害・球症状)・自律神経障害・ミオクローヌス
  • -急速・重症で、積極的な免疫療法を要する
傍腫瘍性 SPS

抗 amphiphysin 抗体が関連。悪性腫瘍の検索が必須

  • -乳癌・肺癌・胸腺腫・リンパ腫などに随伴
  • -腫瘍治療で症状が改善しうる

Clinical Pearls

  • 💡体幹が板のように硬い+音や接触で有痛性spasm+腰椎前弯 を見たら SPS を疑い、抗 GAD65 抗体と EMG(co-contraction)を確認する
  • 💡「転ぶのが怖くて動けない」を不安障害と片付けない — 課題特異的恐怖は SPS の症状。心因性と誤診されやすい
  • 💡ベンゾジアゼピン/バクロフェンは急に切らない — 離脱で命に関わる増悪。手術・絶食・入院時に特に注意
  • 💡免疫療法の第一は IVIG(RCT あり)。難治例に血漿交換・リツキシマブ
  • 💡抗 GAD 陰性・重症・脳幹症状なら PERM(抗 glycine 受容体)、腫瘍があれば傍腫瘍性(抗 amphiphysin)を考える

症候学

体幹軸性の筋硬直

傍脊柱筋・腹筋を主体とする持続的なこわばり。腰椎前弯が増強し、板のように硬い体幹(「鎧を着たよう」)になる。主動筋・拮抗筋が同時に収縮する

臨床的意義: SPS の中核。腰痛・姿勢異常・歩行のぎこちなさとして現れる。EMG で co-contraction を確認
誘発性の有痛性spasm

突然の音・接触・寒冷・情動・驚愕で誘発される強い有痛性の筋spasm。防御動作なく「丸太のように」転倒し外傷を負う

臨床的意義: 誘発性が特徴的。てんかん発作・ジストニア・破傷風などと鑑別。転倒外傷の予防が要る
課題特異的恐怖・驚愕反応

広い場所を横切る・段差を越えるなど特定の場面で強い恐怖を感じ動けなくなる。過度の驚愕反応

臨床的意義: SPS の症状の一部であり、不安障害・心因性と誤診されやすい最大の落とし穴
合併自己免疫・随伴症状

1 型糖尿病・自己免疫性甲状腺疾患・悪性貧血・白斑などの合併。PERM では脳幹症状・ミオクローヌス・自律神経障害

臨床的意義: 合併自己免疫は診断の手がかり。脳幹症状・自律神経障害があれば PERM(抗 glycine 受容体抗体)を疑う

ピットフォール

  • 心因性・不安障害と誤診しない — 課題特異的恐怖・驚愕反応は SPS の症状。持続硬直・誘発性spasmを EMG・抗体で客観化する
  • ベンゾジアゼピン・バクロフェンを急に中止しない — 離脱で重篤な増悪(重積様硬直・自律神経クリシス)。周術期・絶食時に注意
  • 抗 GAD 抗体の力価をみる — 1 型糖尿病でも低力価陽性。SPS は高力価。陰性なら抗 amphiphysin・抗 glycine 受容体抗体を検索
  • 傍腫瘍性(抗 amphiphysin)を見逃さない — 乳癌等を検索。腫瘍治療で改善しうる
  • PERM(抗 glycine 受容体)を見逃さない — 脳幹症状・ミオクローヌスを伴う重症型で、積極的な免疫療法を要する
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出典: Dalakas MC et al. High-dose intravenous immune globulin for stiff-person syndrome. NEJM 2001;345:1870-1876. / Dalakas MC. Stiff-person Syndrome and GAD Antibody-spectrum Disorders(総説). / 抗 GAD65/抗 amphiphysin/抗 glycine 受容体抗体に関する文献.