NEURO DISEASES
脳神経内科 疾患解説
脳神経内科の疾患を、概要・症候学・診察・検査・診断・治療の視点で整理した学習用の解説集です。 学習目的の参考情報として作成しており、最終的な臨床判断は担当医の責任のもと行ってください。
現在 55 疾患を掲載しています(監修済み)。
脳血管障害
脳梗塞✓
急性発症の片麻痺 / 失語または皮質症候 / 感覚障害
小脳梗塞✓
突然発症のめまい・嘔吐・歩行障害 / 体幹失調が著明(四肢失調は支配領域による) / Head impulse test正常(末梢前庭障害では異常になる)
Wallenberg症候群(延髄外側症候群)✓
突然発症のめまい・嘔吐・歩行障害 / 嚥下障害(球麻痺)・嗄声 / しゃっくり(延髄の呼吸中枢近傍の障害)
脳出血✓
突発発症の局所神経症候+頭痛・嘔吐 / 意識障害を伴いやすい(脳梗塞より高頻度) / 高血圧が最大の危険因子
くも膜下出血✓
突然発症の激しい頭痛(「今まで経験したことのない最悪の頭痛」) / 項部硬直、Kernig徴候などの髄膜刺激徴候 / 意識障害を伴うことが多い
一過性脳虚血発作(TIA)✓
突発発症の局所神経症状(通常1時間以内に消失) / 陰性症候(脱力・しびれ・失語など)が主体、陽性症候(けいれん・閃輝暗点等)は通常みられない / 発症後48時間以内の脳梗塞発症リスクが特に高い(全体の約半数)
血管性認知症✓
脳血管障害(脳梗塞・脳出血・小血管病・CAA等)を背景に発症 / 階段状進行が古典的だが、実臨床では緩徐進行性も多い / 実行機能障害・処理速度低下が前景(記憶障害より目立つことが多い)
動脈解離(椎骨動脈・頸動脈)✓
若年〜中年(30-50歳)に多い / 頚部痛・後頭部痛が脳卒中症状に先行することが多い(数時間〜数日) / 外傷・頚部回旋運動・くしゃみ・カイロプラクティック等が誘因
慢性硬膜下血腫(CSDH)✓
高齢者の認知機能低下・歩行障害・片麻痺の重要鑑別 / 軽微な頭部外傷の3週〜3ヶ月後に発症(外傷歴が不明なことも多い) / 高リスク:高齢者、抗血栓薬服用、アルコール多飲、脳萎縮、低髄液圧
脳静脈洞血栓症(CVST)✓
亜急性〜慢性に増悪する持続性頭痛が最多症状(約90%) / 頭蓋内圧亢進徴候(嘔吐・うっ血乳頭・複視)を伴いやすい / 痙攣の合併が動脈性脳卒中より高頻度(約40%)
中枢性脳卒中後疼痛(CPSP / 視床痛)✓
脳卒中病変の対側半身に出現する慢性神経障害性疼痛 / 灼熱痛・刺すような痛み・締め付け感・アロディニア / 発症から数週〜数か月遅れて出現することが多い(中央値1か月程度)
頭痛
片頭痛✓
反復性の中等度〜重度の片側性拍動性頭痛 / 悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴う / 日常動作(歩行、階段昇降)で増悪する
群発頭痛✓
一側眼窩部の激烈な頭痛(「焼け火箸で刺されるような痛み」) / 同側の自律神経症状(流涙、結膜充血、鼻閉/鼻漏、縮瞳/眼瞼下垂) / 発作時間15分〜3時間、1日1〜8回
薬物使用過多頭痛(MOH)✓
月15日以上の頭痛が3ヶ月以上持続 / 急性期薬の使用が月10日以上(トリプタン・複合鎮痛薬)または月15日以上(単純鎮痛薬) / 既存の一次性頭痛(多くは片頭痛)から移行する
緊張型頭痛✓
両側性の締め付け/圧迫感(非拍動性) / 軽度〜中等度の強さ(仕事は継続可能) / 日常動作(歩行・階段昇降)で増悪しない
三叉神経痛✓
片側性の電撃様/刺すような激痛発作(数秒〜数十秒) / V2・V3領域が多く、V1単独は稀 / トリガーゾーン(軽い触刺激・洗顔・歯磨き・咀嚼・冷風で誘発)
低髄液圧症候群(脳脊髄液漏出症)✓
起立性頭痛(立位・座位で増悪、臥位で数分〜15 分で軽快)が中核 / 後頸部痛・悪心・耳鳴/聴力低下・複視(外転神経麻痺)・めまい・羞明を伴う / 硬膜穿刺後・特発性(SIH)・外傷性がある
持続性片側頭痛(hemicrania continua)✓
厳密に片側性・3 ヶ月以上持続する背景痛+増悪発作 / 増悪時に同側の自律神経症状(結膜充血・流涙・鼻閉/鼻漏・眼瞼下垂/縮瞳)や落ち着きのなさ / インドメタシンの治療用量に絶対的に反応する(診断の決め手)
発作性片側頭痛(paroxysmal hemicrania)✓
重度の片側性頭痛発作(眼窩・眼窩上・側頭部) / 短時間(2〜30 分)・高頻度(1 日 5 回超) / 発作時に頭痛と同側の自律神経症状
SUNCT/SUNA(短時間持続性片側神経痛様頭痛発作)✓
ごく短時間(1〜600 秒)の片側電撃痛を高頻度に反復 / SUNCT=結膜充血+流涙、SUNA=一方/他の自律神経症状 / 皮膚刺激で誘発されるが不応期がない(三叉神経痛との違い)
特発性頭蓋内圧亢進症(IIH/偽性脳腫瘍)✓
妊娠可能年齢の肥満女性に多い / 頭痛・拍動性耳鳴・一過性視力障害・複視(外転神経麻痺) / 眼底で乳頭浮腫。最大のリスクは不可逆的な視力障害
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)✓
雷鳴頭痛を 1〜3 週間にわたり反復する / 脳主幹動脈の分節性・多発性の可逆性血管攣縮(string of beads)、3 ヶ月以内に改善 / 誘因:産褥・血管作動薬(トリプタン/SSRI/交感神経刺激薬/大麻)・性行為・いきみ・入浴
てんかん
変性疾患
パーキンソン病✓
安静時振戦(pill-rolling tremor) / 筋強剛(歯車様・鉛管様) / 無動/寡動(動作緩慢、仮面様顔貌、小字症)
アルツハイマー病✓
潜行性発症・緩徐進行(数年〜十数年) / 近時記憶障害(エピソード記憶の遅延再生障害)が初発症状の典型 / 海馬・側頭葉内側を中心とした萎縮(VSRAD で定量可)
レビー小体型認知症(DLB)✓
認知機能の変動(注意・覚醒レベルの著明な日内〜日間変動) / 繰り返す具体的な幻視(鮮明・詳細、人・動物・小人が多い) / REM睡眠行動異常症(RBD):REM睡眠中の夢の演技行動、叫び声
前頭側頭葉変性症(FTLD/FTD)✓
比較的若年(40〜65 歳)発症、記憶は初期に比較的保たれる / 行動障害型(bvFTD):脱抑制・アパシー・共感性低下・常同行動・食行動異常 / 原発性進行性失語(PPA):意味性認知症(svPPA)・進行性非流暢性失語(nfvPPA)
進行性核上性麻痺(PSP)✓
垂直性核上性注視麻痺(下方視から障害。人形の目現象で眼球は動く=核上性) / 発症早期からの反復する転倒 — 後方へ、予告なく、防御動作を伴わない(発症 1 年以内に 58%) / 軸性優位の筋強剛と頸部後屈(retrocollis)
大脳皮質基底核変性症(CBD/CBS)✓
非対称性の運動症状(筋強剛・無動・ジストニア・ミオクローヌス) / 大脳皮質症状(四肢失行・皮質性感覚障害・他人の手徴候) / 非対称性は特徴だが必発ではない(病理確定例で約 73%)
多系統萎縮症(MSA)✓
自律神経障害(起立性低血圧・排尿障害・勃起障害)が早期から前景 / L-ドパ反応性に乏しいパーキンソニズム(MSA-P) / 小脳性運動失調(MSA-C)
正常圧水頭症(NPH)✓
歩行障害・認知障害・排尿障害の 3 徴(Hakim 三徴)。歩行障害が最初・最も改善しやすい / 髄液圧は正常範囲だが脳室が拡大(Evans index >0.3) / DESH(高位円蓋部・正中の脳溝狭小化+シルビウス裂拡大)・脳梁角の鋭角化
中枢神経の自己免疫性疾患
自己免疫性脳炎✓
亜急性の記憶障害・健忘 / 意識変容(譫妄・錯乱・傾眠) / 精神症状(幻覚・妄想・人格変化)
多発性硬化症(MS)✓
空間的多発性(脳・脊髄・視神経の複数部位) / 時間的多発性(再発と寛解の繰り返し) / 視神経炎(多くは片側性)
視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)✓
抗AQP4抗体陽性(約80%) / 重症視神経炎(両側性、視力予後不良) / 長大脊髄病変(3椎体以上のLETM)
スティッフパーソン症候群(SPS)✓
体幹(傍脊柱筋・腹筋)優位の持続的な筋硬直 → 腰椎前弯の増強 / 音・接触・驚愕・情動で誘発される有痛性の筋spasm / 主動筋・拮抗筋の同時収縮(EMG で持続的運動単位活動)
感染症・炎症
細菌性髄膜炎✓
頭痛・発熱・項部硬直・意識障害の主徴(古典的三徴が揃うのは約 44%、van de Beek 2004) / 数時間で致命的になりうる神経救急 — 「疑ったらすぐ動く」、抗菌薬は 1 時間以内に開始 / 起因菌は年齢・免疫状態・背景で変化(16-49 歳:肺炎球菌+髄膜炎菌、≥ 50 歳:+リステリア、術後・シャント:緑膿菌・耐性菌)
単純ヘルペス脳炎✓
発熱+意識障害+精神症状+痙攣の組み合わせ / 側頭葉内側・辺縁系の出血壊死性病変 / MRIで側頭葉内側のFLAIR/DWI高信号
クリプトコッカス髄膜炎✓
亜急性の頭痛・発熱(髄膜刺激徴候は乏しいことがある) / 頭蓋内圧上昇が予後を左右(視力・聴力・意識障害の主因) / 免疫不全(HIV/AIDS〈CD4<100〉・移植・ステロイド等)に多いが、C. gattii は健常者にも発症
脳神経障害
脊髄障害
末梢神経障害
Guillain-Barré症候群✓
先行感染後 1-4 週で発症する急性弛緩性麻痺(数日〜 4 週で進行、平均 2 週で nadir) / 左右対称性・典型は下肢から上行性の筋力低下 / 腱反射の低下〜消失(早期かつ広範)
Fisher症候群✓
Fisher 三徴:両側性外眼筋麻痺・失調・腱反射消失 / 抗 GQ1b 抗体陽性(約 90%)— FS の最重要マーカー / 先行感染後 1-2 週で急性発症、単相性経過
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)✓
8 週以上かけて進行/再発する(GBS の慢性版) / 近位・遠位ともの左右対称性の筋力低下(運動優位)と感覚障害 / 全般性の腱反射消失
アミロイドーシス(アミロイドニューロパチー)✓
長さ依存性の感覚運動性多発ニューロパチー(初期は下肢遠位の温痛覚障害=small fiber・解離性感覚障害) / 早期から高度な自律神経障害(起立性低血圧・消化管症状・排尿/勃起障害・体重減少) / 両側性の手根管症候群がしばしば先行する(特に ATTRwt・AL)
神経筋接合部障害
運動ニューロン疾患
運動異常症
本態性振戦✓
両側性・ほぼ左右対称の上肢の姿勢時・動作時(action)振戦(おおむね 4〜12 Hz、加齢で低下) / 他の神経症候(ジストニア・失調・パーキンソニズム)を伴わない(3 年以上) / 頭部・音声の振戦を伴うことがある、家族歴が多い(約 50〜70%)
ハンチントン病(Huntington病)✓
常染色体顕性遺伝(HTT の CAG リピート異常伸長、≧40 で完全浸透) / 舞踏運動(chorea)を中心とする不随意運動 / 精神症状(抑うつ・易刺激性・無為・強迫・精神病症状、自殺リスク高い)
ジストニア✓
ねじれ・反復性の異常運動と異常姿勢(持続的〜間欠的な筋収縮) / 感覚トリック(geste antagoniste):触れると軽快する / 随意運動で誘発・増悪、課題特異性(書痙など特定動作でのみ出る)
トゥレット症(チック症)✓
複数の運動チック+1 つ以上の音声チック(1 年以上持続、18 歳未満発症) / 前駆衝動(premonitory urge)に続いて生じ、一時的に抑制できる / 症状の増悪・軽快を繰り返す(wax and wane)、暗示・集中で変動